2026年5月
深刻な住宅不足が続くオランダでは、近年、日本人の方が賃貸契約に関するトラブルに巻き込まれるケースが増えています。みなさまの中には、部屋探しに苦労されている方も多いと思います。特にオランダに来られて間もない場合、慣れない環境の中での部屋探しのストレスや不安は多大だと想像します。少しでも安心して生活を送っていただけるよう、オランダの賃貸住宅に関する基本情報をまとめました。正確な情報を知り、自分なりにリスクを見極める力を持つことが、トラブルを避ける最大の武器となります。本記事がその一助となれば幸いです。
1. 賃貸住宅の種類
オランダの賃貸市場は3つのカテゴリーに分かれています[1]。
- ソーシャルハウジング(Sociale huurwoning)
- 中間所得者向け賃貸住宅 (Middenhuurwoning)
- 自由市場賃貸住宅(フリーセクター)(Vrijesectorhuurwoning)
ソーシャルハウジングは主に低所得者向けの住宅です。住宅公社(Woningcorporatie)への登録が必要となり、待機期間は数年から10年以上に及ぶこともあります。
中間所得者向け賃貸住宅は、ソーシャルハウジングの対象外となる中間所得層向けの住宅です。家賃規制が導入され、一定の上限内で賃料が設定されています。待機リストは一般的にありませんが、収入や雇用の安定性が重視されます。
フリーセクター(自由市場賃貸)は、中〜高所得者向けで、家賃は市場によって決まります。待機リストはありませんが、収入や雇用の安定性が厳しく審査され、家賃の3〜4倍程度の収入が求められます。条件を満たせば比較的短期間で入居できます。
ソーシャルハウジングや中間所得者向け賃貸住宅は、条件や制度面でのハードルが高いため、オランダに来て間もない日本人移住者やワーキングホリデーなどの短期滞在者には、フリーセクターまたは部屋借りが現実的な選択肢となります。
2. 賃借人保護
2024年7月1日より「家賃適正化法(Wet Betaalbare Huur)」が施行され、多くの物件でオーナーは自由に家賃を決定できなくなりました[2]。この法律の目的は、家賃高騰防止と住居確保の適正化です。住居ポイント制(Woningwaarderingsstelsel)に基づき、面積、エネルギーラベルやWOZ価格(固定資産税評価額)などに応じて住宅にはポイントがつき、それによって、住宅カテゴリーと家賃上限が設定されます。
- 187ポイント未満は、ソーシャルハウジングまたは中間所得者向け賃貸住宅となり家賃上限があります。上限を超えた家賃を設定している場合、借主は賃貸委員会(Huurcommissie)へ申立てできます。
- 187ポイント以上はフリーセクターとなり、家賃・条件等が比較的自由に設定できます。
3.フリーセクターにおける賃借人保護
フリーセクターの賃貸住宅は、原則として「独立住宅(Zelfstandige woning)」であることが前提です。これは、キッチン・トイレ・バスルームなどの設備を他の居住者と共有せず、すべて専有している住戸を指します。
上述のとおり、フリーセクターにおいては、家賃の上限自体は法律で定められていませんが、家賃が適切な額であるかどうか、賃貸委員会に判断してもらうことができます。毎年の家賃値上げについては一定の規定があり、その最大上昇率は政府によって決定され、毎年変動します。また、2026年におけるフリーセクター住宅の家賃値上げの最大率は、原則4.4%と定められています(例外あり)。借主の同意なしにこれを超える値上げを行うことはできません。万一、規定に違反した値上げが行われた場合には、借主は賃貸委員会に申立てができます[3]。
また、貸主は、正当な法的理由(家賃滞納、迷惑行為、貸主の緊急の自己使用など)がない限り、一方的に賃貸契約を解約することはできません。貸主による解約通知期間は、居住期間によって異なり3か月~6か月です。借主が解約に合意しない場合、貸主は裁判官の解約を認める決定がない限り賃貸契約を解約することはできません[4]。
4. 部屋借り・シェアハウスについて
シェアハウスや部屋借りは、非独立住宅(Onzelfstandige woonruimte)であることから、フリーセクターとは別の規則が適用されます。家賃は、ポイント数によって設定されます。家賃が高すぎる場合、賃貸委員会を通じて減額できることもあります[5]。シェアハウス・部屋借りの場合、市の許可が必要とされる場合が多いです。また、市によって異なりますが、人数や広さの制限等も細かく定められています[6]。同じ部屋借りでも、貸主が住んでいる家の一部を貸し出す、いわゆる下宿(Hospitaverhuur)と、貸主が所有している家(所有しているが自分は住んでいない)を数人に貸し出す場合では、適用される規則は異なります。
5. 契約形態:短期契約はほぼ不可能
2024年7月1日以降、賃貸借契約は原則として「無期限契約」が標準となりました。期限付きの契約が認められるのは、たとえば、以下の場合です。
- 一時的な不在:この契約形態は、オーナーが一時的な不在により、後で再び自分の家に住むことを予定している場合などです。海外赴任の際に利用されることが多いので、外交官条項(Diplomatenclausule)とも言われます。
- 自宅の売却時:自宅を売りに出している間、買い手が見つかるまでの二重の維持費(ローンなど)を軽減するために、一時的に「空き家法(Leegstandswet)」に基づいて貸し出すことができます。これには市の許可証が必要です。
- 特定層限定契約(Doelgroepencontract):学生など、特定の対象者に対して最大2年間の期間限定で貸し出す契約です。
- 下宿(Hospitaverhuur): 自分の住んでいる家の一部(部屋)を貸し出す形態です。最初の9ヶ月間は「試用期間」とされ、オーナー側は3ヶ月の予告期間をおけば解約できます。この期間を過ぎると入居者の保護(権利)が強まります[7]。下宿として貸し出す場合も、市の許可が必要な場合があります。なお、現在、契約期間を最大5年までとするという法律案が出されています[8]。
6. 違法住宅と登録不可物件
賃貸には、貸主が、市役所、銀行、アパート管理組合(VvE)などの許可が必要な場合があります。許可を得ずに賃貸している住宅を借りるのは、トラブルに巻き込まれる可能性が高いので留意しましょう。住民登録不可の物件は、上記にあげる許可が取れていない、または税金逃れや不正に補助金を得ようとしている可能性があるので注意してください。しかしながら、住民登録ができるからといって、それだけで合法な賃貸という確証にはなりません。契約条件や物件形態など様々な点からリスクを判断をしてください。
7. 相談窓口一覧
貸主とのトラブルや詐欺被害の場合の相談先:
- 賃貸委員会(Huurcommissie):https://www.huurcommissie.nl/
- 法律相談窓口(Het Juridisch Loket): https://www.juridischloket.nl/
- Stichting !WOON:https://www.wooninfo.nl/contact/
違法物件と判明しても、直談判を貸主にするのは、危険な場合もあるので、慎重に行いましょう。借主としての権利があるとしてもそれを主張し認めさせるというのは、残念ながら難しいことともあります。そもそも違法とわかっていて物件を貸し出すような貸主なので、常識などは通じないと思って行動してください。
オランダでの賃貸詐欺にあわないためのチェックポイント
オランダ(特にアムステルフェーンやアムステルダム近郊)では、架空の物件や所有権のない物件を使った賃貸詐欺が多発しています。以下は、被害に遭わないための重要なチェックリストです。[9]
「怪しい」サインに注意
- 条件が良すぎる物件: 家賃が異常に安い物件は、現在の市場ではまずあり得ません。
- 契約を急がせる: 「他にも希望者がたくさんいる」「すぐに入金しないと他の人に決まる」と、考える時間を与えずに入金を急がせる。
- 住民登録が不可: 市役所への住民登録ができない。
貸主・物件のチェック
- 身元の確認: やり取りしている人の身元の確認を十分にしましょう。連絡が携帯やSNSのみでのやり取りは避けましょう。
- 所有者の確認: オランダの登記所(Kadaster)で、少額(約3.70ユーロ)を支払えば物件の真の所有者を調べることができます。貸主の名前と所有者が異なる場合は注意が必要です(委任されている場合もありますが、委任状が正式なものか確認してください)。
- 内見の徹底: 実際に中を見ていない物件の契約はしない。海外にいる場合は、友人や同僚に代理で確認してもらいましょう。
支払い
- 銀行振込を利用する: オランダの銀行口座への振り込みを利用しましょう。その他の送金サービスは追跡ができいない可能性があります。
- 鍵と引き換えに支払う: デポジットや最初の家賃は、実際に鍵を受け取り、その鍵でドアが開くことを確認してから支払うのが最も安全です。
手数料
- 仲介手数料(Bemiddelingskosten): 貸主側の不動産業者が、借主に対して仲介手数料を請求することは法律で禁止されています。
- 高額な事務手数料: 契約書作成費用などの名目で高額な請求をすることも、多くの場合認められていません。
詐欺の疑いがある、または被害に遭った場合
- 証拠の保存: 広告のスクリーンショット、メール、WhatsAppのやり取り、振込明細などはすべて保存してください。
- 相談窓口: アムステルダム・アムステルフェーン地域では、!WOON の「不当な賃貸行為通報窓口(Meldpunt Ongewenst Verhuurgedrag)」に相談できます。
- 警察への届け出: 万が一被害に遭った場合は、すぐに警察に被害届を出してください
アドバイス: 自分の直感を信じてください。「何かがおかしい」と感じたり、貸主が詳細を曖昧にしたりする場合は、その契約はやめるべきです。
免責事項
本記事は、現時点での一般的な情報をまとめたもので、できる限り正確で分かりやすい内容になるよう努めていますが、法令や運用は変更されることがあり、また状況によって結論が異なる場合があります。本記事の情報を参考にされた結果として生じた損失やトラブル等について、作成者は一切の責任を負いかねます。ご不安な点や具体的な判断が必要な場合は、専門機関にご相談ください。
Sitichting Japanese Communities Platform
2026年5月
[1] https://www.rijksoverheid.nl/onderwerpen/woning-huren/vraag-en-antwoord/wat-is-het-verschil-tussen-een-sociale-huurwoning-een-middenhuurwoning-en-een-huurwoning-in-de-vrije-sector
[2] https://www.rijksoverheid.nl/actueel/nieuws/2024/06/25/wet-betaalbare-huur-aangenomen-en-van-kracht-vanaf-1-juli
[3] https://www.rijksoverheid.nl/onderwerpen/woning-huren/vraag-en-antwoord/maximale-huurverhoging-vrijesectorhuur-2026
[4] https://www.rijksoverheid.nl/onderwerpen/woning-huren/vraag-en-antwoord/verhuurder-zegt-huur-op-woning
[5] https://www.huurcommissie.nl/support/huurprijscheck/resultaat/resultaat-onzelfstandige-woonruimte
[6] https://www.amstelveen.nl/woningdelen
[7] https://www.rijksoverheid.nl/onderwerpen/woning-verhuren/vraag-en-antwoord/wat-moet-ik-weten-als-ik-een-hospitakamer-wil-verhuren
[8] https://www.rijksoverheid.nl/actueel/nieuws/2025/12/19/wetswijziging-hospitaverhuur-naar-raad-van-state
[9] https://www.wooninfo.nl/english/how-to-avoid-housing-scams/
